はじめに
もくじ
「目を見て挨拶をしましょう」
保育や学校、家庭でもよく聞く言葉です。
でも、すべての子どもが同じように“目を見る”ことができるわけではありません。
社会性の発達には段階があり、さらに一人ひとりの感じ方・見え方(認知特性) にも違いがあります。
ここでは、社会性の発達の流れと、多様な認知特性を踏まえた関わり方について考えていきます。
【1】社会性の発達とは
社会性とは、他者と関わりながら、自分以外の存在を意識し、協力したり思いやったりする力です。
この力は、日々の遊びや人との関わりの中で少しずつ育まれていきます。
【2】パーテンによる遊びの発達段階
アメリカの心理学者パーテン(Parten, 1932)は、子どもの社会的な遊びの発達を6段階に分けて示しました。
遊びの形が変わることは、社会性の発達そのものを表しています。
段階 | 年齢の目安 | 特徴 |
---|---|---|
① 非社会的行動(遊びに専念しない行動) | 0〜2歳 | 周囲を観察したり、立ち止まったりする段階。まだ積極的には遊ばない。 |
② 一人遊び | 2〜3歳 | 他の子がいても関心を示さず、一人で好きな遊びに没頭する。 |
③ 傍観的行動 | 2.5〜3.5歳 | 他の子の遊びを眺めたり、質問したりするが、自分は参加しない。関心が芽生え始める段階。 |
④ 並行遊び | 2.5〜3.5歳 | 近くで同じような遊びをする。真似をしたり同じ空間で過ごすが、協力はまだ少ない。 |
⑤ 連合遊び | 3〜4歳 | 言葉のやりとりをしながら遊ぶ。共通のテーマはあるが、役割分担はまだ難しい。 |
⑥ 協同遊び | 3〜6歳 | 目的やルールを共有し、役割を分けて遊ぶ。チームとしての関わりが成立する。 |
🔹遊びの発達=社会性の発達。
子どもたちは遊びを通して「一緒に楽しむ」「譲り合う」「気持ちを伝える」力を学んでいきます。
【3】人への意識の発達
人と関わる力の基礎は、乳児期から始まります。
時期 | 発達の特徴 |
---|---|
乳児期(0〜3か月) | 顔や目などコントラストのはっきりしたものを好む。約30cmの距離で人の顔を見つめる。 |
6〜8か月 | 「いつもと違う人」が分かり、人見知りが始まる。特定の大人に強い愛着を示す。 |
1歳前後〜 | 親や保育者の反応を見ながら行動する(社会的参照)が見られる。 |
2歳〜 | 「自分」と「他人」の違いを理解し始め、自己主張が強くなる。“いやいや期”は社会性の芽生え。 |
【4】自閉スペクトラム症の認知特性を理解する
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちは、
社会的な情報(人の顔・表情)よりも、図形・文字・数字・パターンなどの非社会的な情報に注目しやすい特性があります。
そのため、
「目を見て話す」「表情を読む」といった行動が難しい場合があります。
これは「できない」ではなく、感じ方・見え方が違うということ。
目を見ると情報が多すぎて混乱したり、不安が強くなったりする子もいるのです。
【5】「目を見て挨拶をしましょう」だけが正解ではない
「目を見て挨拶をする」は、顔の表情や視線から相手の気持ちを読み取れる人が多い社会だからこそ生まれたルールです。
しかし、視線を合わせることが苦手な子にとって、それは苦痛や緊張を伴う行為になり得ます。
👉 たとえ目を見ていなくても、
声で挨拶をしたり、体を向けて反応したりしているなら、それも立派な「挨拶」です。
【6】「社会に合わせる」ことと「その子に合わせる」ことのバランス
「今の社会では目を見て挨拶するのが正解だから、そう教えないと生きにくくなる」という考えもあります。
確かに、社会のルールを学ぶことは大切です。
ただし、その子の理解のペースと安心感を無視して教えることは逆効果になってしまいます。
◆ 無理に合わせさせることで起こること
- 緊張や不安が高まり、関わり自体を避けるようになる
- 「自分はできない」と感じ、自己肯定感が下がる
- 挨拶への意欲そのものを失う
【7】関わり方のポイント
- 強制しない
→ 「ちゃんと目を見て!」ではなく、「声で挨拶できたね」と認める。 - 代替手段を尊重する
→ 手を振る・体を向ける・カードを見せるなども立派な挨拶。 - 意味を添えて伝える
→ 「相手の顔を見ると、声が届きやすいよ」など、納得できる理由を伝える。 - 段階的にステップアップ
→ まずは「相手の方を向く」→「鼻や口あたりを見る」→「少しずつ目を見る」といった段階的支援を。
【8】まとめ 〜理解される経験が社会性を育てる〜
社会の中で生きる力を育てるとは、
単に「社会に合わせるように教える」ことではありません。
その子が
- 理解されていると感じること
- 自分のやり方でも受け入れられること
- 少しずつ新しい方法を試してみようと思えること
この積み重ねが、本当の意味での社会性の発達につながります。
「違いを理解し合える社会」こそが、子どもたちが安心して成長できる社会なのです。
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