はじめに:我慢は「教え込むもの」ではない
子どもに「我慢しなさい」と伝える場面は多いですよね。
でも、その言葉の先に、子ども自身の理解はあるでしょうか?
我慢を「練習」として繰り返すことも大切に思えますが、
実はそれだけでは“本当の我慢”は育ちません。
本当に身につけたいのは——
「なぜ我慢するのか」がわかり、納得して選べる力
ここでは、心理学的な視点から「我慢の本質」について考えていきます。
我慢ができる理由:未来の価値を見通せるから
我慢とは、ただ感情を抑え込むことではありません。
本質的には、
「今の価値」と「将来の価値」を比べて、より良い方を選ぶ行為」
です。
たとえば、
今すぐおやつを食べたいけど、みんなで食べる方が楽しい 遊びたいけど、宿題をしておくと後で気持ちが楽になる
このように、**我慢とは「時間の先にある価値を理解する力」**なんです。
心理学ではこれを「遅延報酬(ディレイド・グラティフィケーション)」と呼びます。
練習だけの我慢は“苦痛”でしかない
我慢の意味がわからないまま「練習」させられると、
やりたいことを止められる不快感 自分の意思で動けないもどかしさ
だけが残ります。
これは、**外からの抑制(外発的コントロール)**であり、
内側から生まれる成長にはつながりにくいのです。
それでも我慢を続けてしまう理由
それでも人が我慢を続けるのは、
「この我慢をやめたら、もっとつらいことが起きる」と感じているからです。
具体的には、
勉強をやめたら親に怒られる、嫌われる、だめな子だと思われる 順番を守らないと友だちに嫌われる、注意される 仕事をサボると評価が下がる、信頼を失う
つまり、人は**“さらなる苦痛(罰・否定・孤立)”を避けるために我慢を続ける**のです。
この場合、我慢は“自分の選択”ではなく“恐れからの行動”になっています。
我慢の本質:抑える力ではなく「価値を選び取る力」
本当の我慢は、「苦痛に耐えること」ではありません。
「何が自分にとってより大切か」を考え、
自分の意志で選び取ることができたとき、初めて成立します。
つまり、我慢とは——
「抑えること」ではなく、「選ぶこと」。
子どもに“意味ある我慢”を育てるには
① 「なぜ我慢するのか」を一緒に考える
ただ「ダメ」「待ちなさい」と言うのではなく、
「どうして今は待つ必要があるのか」を一緒に考えることで、
子どもは“我慢の意味”を理解できます。
② 小さな成功体験を積ませる
短い時間でも「待てた」「頑張れた」という体験を積むことで、
「我慢したら良いことがあった」という実感が生まれます。
この成功体験が“我慢の土台”になります。
③ 感情を抑え込ませず、共感する
「待つのつらいよね」「遊びたいよね」と、気持ちを理解してもらえるだけで、
子どもは我慢を“強制されたもの”ではなく、“支えられた選択”として感じられます。
まとめ:我慢は「意味を理解したとき」に育つ
我慢は「練習」でなく、「意味の理解」から生まれる 意味がわからない我慢は、苦痛でしかない 人は「さらに大きな苦痛」を避けるために我慢を続けるが、それは自発的な我慢ではない 本当の我慢は、価値を比較して「自分で選び取る力」
子どもに我慢を教えるとき、
「どう我慢させるか」ではなく、
「なぜ我慢するのかをどう伝えるか」を大切にしていきましょう。

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