【保育士必見】アタッチメント理論とは?子どもの愛着スタイルを理解して、健やかな成長を促そう

子どもの健全な成長と発達をサポートする保育士にとって、「アタッチメント理論(愛着理論)」を正しく理解することは、子どもとの信頼関係を築き、その成長をより効果的に促すために欠かせません。

今回は、アタッチメント理論の基礎知識から、4つの愛着スタイル、そして保育士ができる具体的な関わり方について解説します。

アタッチメント理論とは?

アタッチメント(Attachment)とは、日本語で**「愛着」と訳されます。

この理論は、イギリスの児童精神科医・精神分析家であるジョン・ボウルビィ(John Bowlby)**によって提唱され、その後メアリー・エインズワース(Mary Ainsworth)らによって発展しました。

アタッチメントの定義

ボウルビィは、アタッチメントを**「特定の人との間に結ぶ、情緒的な強い絆」**と定義しています。

人間(特に乳幼児)には、不安や恐怖を感じたとき、特定の養育者(アタッチメント・フィギュア)に物理的・心理的にくっつくことで、安心感を得ようとする本能的な行動システムが備わっています。これをアタッチメント・システムと呼びます。

「安全基地」と「安心の避難場所」

アタッチメントの機能は、大きく2つの役割で説明されます。

1. 安心の避難場所(Safe Haven): 怖いことや不安なことがあった時、逃げ帰って慰められる場所。

2. 安全基地(Secure Base): 安心感を得た後、そこを拠点として外の世界へ探索に出かける基地。

アタッチメントの流れ:

1. 不安・不快(スイッチON): 泣く、呼ぶ、後追いなどの「アタッチメント行動」で養育者を求める。

2. 接近・接触: 養育者が応え、スキンシップや言葉かけを行う。

3. 安心・鎮静(スイッチOFF): 不安が解消される。

4. 探索活動: 再び遊びや学習に向かう。

このサイクルの繰り返しにより、子どもは自分の中に**「自分は愛される価値がある」「他者は信頼できる」という内的ワーキングモデル(IWM)**を形成していきます。

子どもの愛着スタイル(4つのパターン)

エインズワースらの研究(ストレンジ・シチュエーション法など)により、アタッチメントの質は大きく4つのスタイルに分類されることがわかっています。これは「養育環境」や「養育者の関わり方」によって形成される傾向があります。

※これらは子どもの性格を決めつけるものではなく、「どのような支援が必要か」を理解するための指標です。

① 安定型(Bタイプ)

養育者が子どものサインに敏感に気づき、適切に応えてきたケースで見られます。

• 特徴:

• 不安な時は素直に助けを求め、慰められるとすぐに安心する。

• 養育者を「安全基地」として、活発に遊び(探索)ができる。

• 子どもの心理(IWM):

• 「困ったときは助けてもらえる」

• 「自分は大切にされる存在だ(自己肯定感)」

• 「人は信頼できる(基本的信頼感)」

• 予後: 対人関係が良好で、ストレスへの耐性も強くなりやすい。

② 回避型(Aタイプ)

子どもが泣いたり求めたりした時に、拒絶されたり、放っておかれた経験が多いケースで見られます。

• 特徴:

• 困った時や不安な時でも、養育者に助けを求めない。

• 親がいなくなっても平気なふりをする(内心はストレスを感じている)。

• 抱っこなどを求めず、一人で遊ぶことが多い。

• 子どもの心理(IWM):

• 「助けを求めても拒否されるかもしれない」

• 「人は当てにならないから、自分でなんとかしなきゃ」

• 課題: マイナスの感情を抑圧しやすく、他者への不信感から孤立しやすい傾向があります。

③ 抵抗型 / 葛藤型(Cタイプ)

養育者の対応が一貫せず、気まぐれ(ある時は可愛がるが、ある時は無視するなど)であるケースで見られます。アンビバレント型とも呼ばれます。

• 特徴:

• 常に不安そうで、養育者から離れられない(探索できない)。

• 再会した時、抱っこを求めるのに、抱かれると怒って暴れるなど矛盾した行動をとる。

• なだめられてもなかなか泣き止まない。

• 子どもの心理(IWM):

• 「いつ見捨てられるかわからない」

• 「もっと激しく求めないと気づいてもらえない」

• 課題: 常に相手の顔色をうかがい、感情のコントロールが苦手になることがあります。

④ 無秩序・無方向型(Dタイプ)

虐待やネグレクト、あるいは養育者自身が未解決のトラウマを抱えているなど、子どもにとって養育者が「恐怖の対象」である場合に見られます(Main & Solomon, 1990)。

• 特徴:

• 親に近づきたいが怖いという葛藤から、凍りついたような表情をする。

• 突然床に伏せる、奇妙な行動をとるなど、行動にまとまりがない。

• 子どもの心理(IWM):

• 「自分を守ってくれるはずの人が怖い」

• 「どうしていいかわからない(混乱)」

• 課題: 感情調整や対人関係に深刻な問題を抱えやすく、専門的な支援が必要な場合があります。

保育士は「第2の安全基地」になれるか?

ここで重要なのは、**「保護者とのアタッチメントと、保育士とのアタッチメントは独立している(相関しない)」**という研究結果です(Howes, 1999等)。

つまり、家庭環境により回避型や抵抗型の傾向がある子どもでも、保育園で保育士と「安定型のアタッチメント」を築くことは十分に可能です。これは、その後の子どもの人生において大きな救い(保護要因)となります。

アタッチメント人物になれる3つの条件

アメリカの心理学者キャロル・ハウズ(Howes, 1999)は、親以外の養育者がアタッチメント対象になるための条件として、以下の3つを挙げています。

1. 身体的・情緒的なケアを提供すること

• 食事、排泄、睡眠などの世話だけでなく、抱っこや慰めなどの情緒的な関わりも含む。

2. 子どもの生活の中で持続的・一貫した存在であること

• 特定の保育士が継続的に関わること(担当制保育の重要性)。

3. 子どもへの「情緒的投資(Emotional Investment)」があること

• 「この子の成長が自分の喜びである」と感じ、心理的にコミットしていること。ビジネスライクな関係ではないこと。

保育現場での実践ポイント

安定型アタッチメントの形成を目指し、保育士は以下の点を意識しましょう。

• SOSを敏感に察知し、すぐに応答する

• 「泣いたらすぐ抱っこ」は甘やかしではありません。信頼の土台作りです。

• 「助けを求めていい」と伝える

• 特に回避型の子には、さりげなく寄り添い「手伝うよ」「痛かったね」と声をかけ、依存欲求を受け入れます。

• 感情を代弁する

• 自分の気持ちが分からない子には、「悲しかったね」「遊びたかったね」と言葉にしてあげることで、感情調整を助けます。

• 安心できる物理的環境

• 3歳未満児には、いつでも保育士に触れられる距離(物理的接近)が必要です。

• 3歳以上児になれば、保育士が見守ってくれているという感覚(表象的接近)があれば、離れて遊べるようになります。

おわりに

アタッチメントは、子どもが世界を探索し、人間関係を築いていくための土台です。

「家庭で愛着形成がうまくいっていないからダメだ」と諦める必要はありません。保育園という場所が、子どもにとっての「安全基地」となり、保育士が信頼できるアタッチメント・フィギュアになることで、子どもは「自分は愛される価値がある」と信じ直すことができます。

子どもの「困った」行動の裏にある「愛着への渇望」や「不安」に目を向け、一人ひとりの心に寄り添った保育を目指していきましょう。

【参考文献】

• Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss: Vol. 1. Attachment.

• Ainsworth, M. D. S., et al. (1978). Patterns of attachment: A psychological study of the strange situation.

• Howes, C. (1999). Attachment relationships in the context of multiple caregivers. Handbook of Attachment.

• Main, M., & Solomon, J. (1990). Procedures for identifying infants as disorganized/disoriented during the Ainsworth Strange Situation.

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