テーマ:怒りの構造分析とカウンセリングマインド
1. 怒りは「二次感情」である ~氷山モデル~
もくじ
物語の中で芦田先生が描いた「氷山の絵」。これはアンガーマネジメントの基礎理論である**「怒りの氷山モデル」**です。
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- 水面上の怒り(二次感情)
- 怒りは、実は「結果」として表出しているだけの感情です。突然怒りだけが湧いてくることはありません。
- 水面下のSOS(一次感情)
- 怒りの下には、必ず「悲しい」「寂しい」「不安」「苦しい」「分かってほしい」という一次感情が隠れています。
- コップの中に「一次感情」が溜まり続け、溢れ出した瞬間に「怒り」という形に変わって爆発します。
- 対応の鉄則: 相手の「怒り(水面上)」に反応して言い返しても解決しません。「一次感情(水面下)」に気づき、「辛かったですね」と寄り添うことでしか、コップの水は減りません。
2. なぜ「正論」を言うと炎上するのか?
鈴木先生が最初に「確認したつもりだったのですが(言い訳・正論)」と言った時、お母さんはさらに激昂しました。これは**「心理的リアクタンス(抵抗)」**が働くからです。
- 論理 vs 感情
- 興奮状態の保護者は、右脳(感情)が優位になっています。そこに左脳(論理・正論)で返しても、チャンネルが合わないため、「私の気持ちを無視された」「攻撃された」と受け取ります。
- 受容が先、説得は後
- クレーム対応のゴールデンルールは、**「まず感情(辛さ)を受容し、相手の脳をクールダウンさせてから、事実確認(論理)に移る」**ことです。
- 「お仕事でお疲れのところ、ガッカリさせてしまいましたね(受容)」という言葉が、相手の理性のスイッチを入れる鍵になります。
3. 魔法その1:労い(ねぎらい)のサンドイッチ
文句を言ってくる保護者の多くは、実は**「承認欲求」**に飢えています。
- 承認の欠如
- 現代の親(特にワンオペ育児やお仕事をされている方)は、「やって当たり前」と思われており、誰からも「頑張っているね」と褒められません。
- 園へのクレームは、「私はこんなに頑張って準備しているのに!」という、「私の頑張りを認めて!」という叫びの裏返しである場合が多いです。
- 労いの効果
- 「お母さん、いつも頑張っていますね」という言葉は、枯渇した承認のコップを満たします。満たされた人間は、他者(保育士)を攻撃する必要がなくなります。
4. 魔法その2:アイ・メッセージ(I-Message)
鈴木先生が使った「(私は)お母さんと一緒に支えたいんです」という言葉。これはアサーション(自己表現)の技術です。
- ユー・メッセージ(You-Message)の危険性
- 「(あなたは)ズボンを持ってきてください」「(あなたは)栄養を考えてください」
- 主語を「あなた」にすると、どうしても指示・命令・非難のニュアンスが含まれ、相手は防衛的になります。
- アイ・メッセージ(I-Message)の力
- 「(私は)こうしてもらえると助かります」「(私は)お母さんと協力したいです」
- 主語を「私」にすると、相手を責めずに自分の気持ちや要望を伝えることができます。これにより、対立構造ではなく**「協力構造」**を作ることができます。
【まとめ:明日からの実践ポイント】
| 従来の対応(防衛戦) | 明日からの対応(支援戦) | 心理学的根拠 |
| 「理不尽なモンスターだ」 (敵対視) | 「困っているお母さんだ」 (支援視) | 怒りの下の「一次感情(SOS)」に注目する |
| 「確認しましたけど!」 (正論・反論) | 「不快な思いをさせましたね」 (感情の受容) | まず感情を受け止め、右脳から左脳へスイッチさせる |
| 「ルールを守ってください」 (指示) | 「協力していただけると嬉しいです」 (アイ・メッセージ) | 相手を責めずに協力を仰ぎ、パートナーシップを築く |
第9章の深掘りは以上です。
保護者を「モンスター」と呼ぶのをやめた瞬間、保育士のストレスもまた、劇的に軽くなるのです。



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