テーマ:排泄メカニズムとエリクソンの発達課題(自律 vs 恥)
1. なぜ「トイレに行きなさい」と怒鳴ると出ないのか?
もくじ
第2章の給食編、第3章の午睡編と同じく、ここでも自律神経が鍵を握っています。
- 排泄の生理的スイッチ
- おしっこやうんちを出すためには、**副交感神経(リラックス)**が優位になり、膀胱や直腸が収縮し、括約筋(出口の筋肉)が緩む必要があります。
- 鈴木先生のように「出るまで出られないぞ!」と脅すと、子どもは緊張して**交感神経(ストレス)**が優位になります。
- 結果: 交感神経が働くと、体は「戦うモード」になり、トイレどころではなくなるため、生理的に括約筋がギュッと閉まります。 つまり、怒れば怒るほど、体は物理的に出せない状態になるのです。
2. エリクソンの発達心理学:「恥」の刻印
発達心理学者エリク・エリクソンは、2~3歳頃の発達課題を**「自律性 vs 恥・疑惑」**と定義しました。この時期の関わり方は、その後の人生観に大きく影響します。
- 「あーあ」という溜息の罪
- お漏らしをした時に、大人が「あーあ(失望)」「くさい(拒絶)」「赤ちゃんみたい(羞恥)」という反応をすると、子どもは強烈な**「恥(Shame)」**を感じます。
- 「自分は自分の体をコントロールできないダメな人間だ」という疑惑が刻まれ、自信を喪失します。
- 過剰な統制への反抗
- 排泄は、子どもが大人に対して唯一「出す/出さない」を自分で決められる武器です。
- 無理強いされると、子どもは自尊心を守るために「便秘(わざと出さない)」になったり、わざと漏らしたりして抵抗することがあります。
3. 魔法その1:「事後肯定(出たね)」の科学
芦田先生が実践した「漏らした後に『出たね』と言う」アプローチには、学習理論的な意味があります。
- 排泄の自立への3ステップ
- 事後報告: 出た後に「出た」と気づく(不快感の認知)
- 事前感覚: 出る瞬間に「あ、出る」と気づく(切迫感の認知)
- 事前予告: 出る前に「出そう」と気づく(尿意の予知)
- 「出たね」の効果
- お漏らしをした瞬間は、実は**「排泄の感覚」を学ぶ最大のチャンス**です。
- ここで叱ると、子どもは「恐怖」に意識が向き、「感覚」を学習できません。
- 「出たね(事実)」→「スッキリしたね(快感)」と言語化することで、脳と膀胱の神経回路がつながり、ステップ1(事後報告)からステップ2、3へと進む土台ができます。
4. 魔法その2:「招待状(インビテーション)」と個の尊重
従来の「一斉トイレ」から「個別の招待」へ切り替えることは、保育の質を劇的に高めます。
- 排尿間隔の個人差
- 膀胱の大きさや、尿を溜める力には大きな個人差があります。
- 「1時間おき」のような機械的な誘導は、溜まっていない子には苦痛でしかなく、溜まっている子には手遅れになる可能性があります。
- 主体的選択
- 「トイレに行かされる」のではなく、「遊びの続きを楽しむために、今行っておく」という自己決定を促します。
- ハルト君のように「自分で決めて行った」という経験こそが、「次もトイレでしよう(自律)」という意欲の源泉になります。
【まとめ:明日からの実践ポイント】
| 従来のトイトレ(訓練) | 明日からのトイトレ(支援) | 心理的・生理的根拠 |
| 「出るまで座ってなさい」 (拘束) | 「出なかったらまた今度」 (解放) | リラックスしないと括約筋は緩まない(生理学) |
| 「あーあ、漏れちゃった」 (失望) | 「オシッコ出たね、着替えよう」 (肯定) | 失敗を責めず、排泄感覚の学習機会にする(認知) |
| 「まだ出ないの?」 (プレッシャー) | 「出る時教えてね(待つ)」 (信頼) | エリクソンの「自律性」を育て、恥の意識を植え付けない |



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