テーマ:行動変容を促す「認知」と「自律」のアプローチ
1. 「静寂」の罠(見せかけの保育)
もくじ
物語の中で、鈴木先生は「静かなクラス=良いクラス」と考えていましたが、芦田先生はこれを「思考停止」と呼びました。
- 恐怖によるコントロール(外発的動機づけ)
- 怒られるから静かにする、という動機は「恐怖」です。
- この状態の子どもは、常に大人の顔色を伺い、「何が正しいか」ではなく「どうすれば怒られないか」を基準に行動します。
- リスク: 監視者(保育士)がいなくなった瞬間に、抑圧されたエネルギーが爆発し、クラス崩壊を引き起こします。また、自分で考える力が育ちません。
2. なぜ「~するな(否定命令)」は効かないのか?
脳科学の知見において、**「人間の脳は否定形を理解しにくい」**という特性があります。
- ピンクの象のパラドックス
- 「ピンクの象を想像しないでください」と言われると、脳は一度「ピンクの象」をイメージしてから、「それを否定する」という処理を行います。
- 「走るな」と言われた子どもは、まず「走る」イメージを想起してしまいます。結果、逆に走ってしまうことがあります。
- 肯定的な具体指示
- ×「走らない」 → ○「歩きます」
- ×「大声を出さない」 → ○「アリさんの声で話します」
- 脳がイメージしやすい「肯定的な行動」を伝えることが重要です。
3. 魔法その1:「実況中継」の心理学的効果
芦田先生が提案した「実況中継(ナレーション)」には、**「メタ認知」**を促す効果があります。
- メタ認知(自分を客観的に見る力)
- 子どもは、自分が興奮している時、自分がどういう状態か分かっていません。
- 「すごい速さで走っているね」と言われると、子どもは鏡を見たように**「あ、僕はいま走っているんだ」**と自覚(認知)します。
- アイ・メッセージと受容
- 「コラ!」(怒り)ではなく、「走っているね」(事実)と伝えることは、「あなたの行動を見ているよ」という受容のメッセージになります。
- 受容されると、子どもは防衛本能(反発・言い訳)を解き、大人の言葉を聞き入れる態勢になります。
4. 魔法その2:「3秒の空白」の正体
これは、子どもへの指導法であると同時に、保育士自身の**「アンガーマネジメント」**です。
- 「6秒ルール」の短縮版
- 怒りのピークは長くて6秒と言われています。保育現場での6秒は長すぎるため、まずは「3秒」です。
- 反射的に怒鳴るのは、保育士自身の感情の爆発です。3秒待つことで、理性の脳(前頭葉)を働かせ、「指導」に切り替えることができます。
- 子どもの「ハッとする時間」
- 子どもが悪さをした時、実は子ども自身も「あ、やっちゃった」と思っている瞬間があります。
- そこで間髪入れずに大人が怒鳴ると、子どもは「反省」ではなく「反発」に逃げます。
- 3秒待つことで、子どもが自らブレーキを踏む(自律する)チャンスを保障しています。
【まとめ:明日からの実践ポイント】
| 従来の指導(支配) | 明日からの指導(対話) | 心理的効果 |
| 「走るな!」 (否定命令) | 「新幹線みたいに走ってるね」 (実況中継) | 自分の行動を客観視させる(メタ認知) |
| 「なんで走るの!」 (詰問) | 「どうしたかったの?」 (目的の確認) | 理由を聞いてもらえた安心感と、解決策の模索 |
| 即座に怒鳴る (反射) | 3秒じっと見る (空白) | 自分で「あ、いけない」と気づく(自律) |



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